京都を舞台にした歌には、どこか心の奥をくすぐるような、静かな余韻が残るものが多い気がします。今回ご紹介したいのは、そんな京都の風情を音楽で表現した2曲——渚ゆう子の「京都の恋」と、フォークデュオ・タンポポによる「嵯峨野さやさや」です。
■ 京都の恋(1970年・渚ゆう子)
2025年の今年は大阪・関西万博が開催されていますが、この「京都の恋」は、ちょうど55年前の1970年に開かれた日本万国博覧会(大阪万博)を記念して制作された楽曲です。もともとはザ・ベンチャーズによるインストゥルメンタル曲で、原題は "EXPO'70"(または "EXPO
SEVEN-O")、日本での英語題は "KYOTO DOLL" とされていました。
この楽曲に歌詞が付けられ、渚ゆう子が歌った「京都の恋」は、1970年5月に発売されました。当初はそれほど注目を集めなかったものの、万博が終盤に差しかかった9月頃から人気に火がつき、オリコンのシングルチャートで8週連続1位を記録、累計120万枚を売り上げる大ヒットとなりました。
ベンチャーズのサウンドと、渚ゆう子の日本的な歌唱——この意外性のある組み合わせが、かえって新鮮でした。情緒的な歌詞に対し、リズムは軽快でドラムのアクセントが効いており、どこか不思議な感覚をもたらします。
制作に際しては、ベンチャーズのメンバーに日本の伝統曲「さくらさくら」を聴かせて、そのコードや雰囲気を参考にしてもらったとのこと。確かに、イントロの導入部には和の音階を感じさせるような旋律が漂い、京都という古都のイメージに見事にマッチしています。
■ 嵯峨野さやさや(1975年・タンポポ)
もう一曲ご紹介したいのが、「嵯峨野さやさや」という歌です。1975年に発売されたフォークデュオ「タンポポ」による楽曲で、知名度としてはあまり高くなく、当時も大ヒットというわけではなかったようです。現在ではほとんど耳にする機会もありませんが、リンク先音楽サイト(エムズの片割れ)のおかげで、この名曲に出会うことができました。
同じ旋律を繰り返すだけの歌唱の歌が多い中で、この曲では斉唱や輪唱が巧みに用いられており、宮村姉妹による清らかで透明感のある歌声が胸に響きます。華やかさはないものの、聴くたびに心が落ち着き、静かな感動が広がっていきます。残されたライブ映像を見ると、ステージでは二人とも、ギターを弾きながら歌っていたようです。
フォークデュオ「タンポポ」としての活動期間は7年ほどで、1981年に引退されたそうですが、この一曲を世に残されたことだけでも、十分に歌手としての足跡を残されたと言えるのではないでしょうか。
1970年代当時、京都を舞台にした楽曲は数多くありました。それぞれに、古都の風情や情景を背景にして、人の心の機微を描いていました。今の京都は、観光都市として国際的にも有名になり、多くの外国人観光客でにぎわっています。その一方で、かつてのような静けさや風情を味わうのが難しくなってきたようです。
しかし、こうした歌を耳にすると、まるでタイムスリップしたかのように、往時の京都が鮮やかに蘇ってきます。音楽は、記憶や風景と結びつきながら、私たちを何時でも“あの頃”へ連れて行ってくれます。
時代を越えて、人の心に語りかけてくる音楽の力に、あらためて心打たれますが、この「京都の恋」と「嵯峨野さやさや」は、そんな旅路の道しるべのような存在で、こうした曲を聴くと、また京都を訪れてみたくなります。
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