2025-05-31

「舟歌」と「別れの一本杉」(斎藤功のギター演奏で味わう、演歌の不朽の名曲)

  演歌の世界に名を刻む不朽の名曲2――『舟歌』と『別れの一本杉』。

この二つの楽曲を、演歌ギターの名手・斎藤功の演奏で味わえる映像がYouTubeに公開されています。 


斎藤功といえば、木村好夫と並んで「演歌ギター」の第一人者として知られる存在です。木村がジャズギター出身であるのに対し、斎藤は明治大学マンドリン倶楽部の出身。長年にわたってスタジオミュージシャンとして活躍し、多くの歌手たちの演奏を支えてきました。

 

なかでも演歌における伴奏やソロ演奏では、まさに右に出る者がいないとまで言われ、神業とも称される技巧と豊かな音楽性、そして心を打つ気迫のこもった演奏で、多くの聴衆を魅了してきた人物です。

 

今回は、そんな斎藤功によるギター演奏を通して、ふたつの名曲を味わいながら、それぞれにまつわる私の個人的な記憶も交えて、綴ってみたいと思います。

 

■ 舟歌

舟歌(リンク)

哀愁に満ちた音色を奏でる、この演奏を聴いていると、「ギターは小さなオーケストラ」という言葉の意味が、自然と胸に落ちてきます。

 

ギターという楽器の最大の特徴は、「音を消すことができる」という点にある。――そんな話を聞いたことがあります。和音を奏でられる楽器でありながら、休符を自在にコントロールできるギター。その特性は、他の楽器にはあまり見られません。例えばピアノでは、出した音をその瞬間に完全に消すというコントロールは不可能です。

 

私たちは音楽を演奏する際、どうしても「音を出すこと」ばかりに意識が向きがちですが、実は「音を消すこと」もまた同じくらい重要なのだ――というこの話は、深く心に残りました。

 

■ 別れの一本杉

別れの一本杉(リンク)

 こちらの演奏では、途中からハーモニカが加わります。斎藤功のギターとともに響くハーモニカの音色は、実に美しく哀愁に満ちた情感を見事に表現しています。

 

ハーモニカというと、小学校の音楽授業で使われることから、「子どもの楽器」というイメージを持つ人が多いかもしれません。しかし、実際には本格的な演奏も可能な、非常に奥深い魅力を持つ楽器です。

 

私には、父の妹にあたる叔母がいました。わずか24歳でこの世を去り、私が生まれた時にはすでに亡くなっていたため、実際に会ったことはありません。けれど、家族から伝え聞いたところによると、その叔母はハーモニカがとても好きで、しかも演奏が非常に上手だったそうです。

 

私が幼い頃、実家にはその叔母が遺した、ハーモニカ用の楽譜がたくさん残っていました。ハーモニカの譜面というのは独特で、一般的な五線譜とは大きく異なり、数字が並んでいて、まるで暗号のように見えます。中には「C」「m」「Am7」「E7」など、コード進行を示すアルファベットと数字の組み合わせも含まれており、本格的な楽曲を演奏することが可能です。

 

叔母が使っていた楽譜には、『ハンガリー舞曲』などクラシック曲もたくさん含まれていました。今こうして文章を書きながら、その叔母の演奏を一度でいいから生で聴いてみたかった――そんな思いが、しみじみと湧き上がってきます。

 

シニア層の人たちは、「演歌は日本人の魂を揺さぶる」とよく言われますが、確かにその通りだと、あらためて感じます。

こうした『舟歌』や『別れの一本杉』といった演歌の名曲演奏を、静かに聴いていると、これまでの人生で経験した様々な出会いや別れ、楽しかったこと、悲しかったこと、辛かったこと、――


それらが走馬灯のように、心に浮かび上がってきます。そして、哀愁を帯びたメロディーが、じんわりと心の奥に染み込んでくるのです。

演歌は、人生の記憶を静かに呼び起こし、心にそっと寄り添ってくれる――そんな存在なのかもしれません。

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