NHKがテレビやラジオで、長年放送している『みんなのうた』という音楽番組があります。5分間のミニ番組ですが、テレビ版ではアニメーションを中心とした短編映像が添えられ、子どもだけでなく大人の心にも響く数々の歌が紹介されてきました。今回は、その中から二つの名曲をご紹介します。
■しあわせのうた(NHKみんなのうた)
東・西・南・北と、様々な場所に住む人々の幸せと、その理由を歌った楽曲で、NHKの『みんなのうた』で1984年10月に初紹介されました。
それぞれの地域の自然や暮らしに寄り添った「小さな幸せ」が、やさしい言葉で語られます。テレビで放送されたのは4番まででしたが、実は「生きていることの幸せ」を歌った5番が存在しています。
アニメーションでは、原始時代の家族が描かれていました。歌ったのは、当時20代半ばだった榊原郁恵さん。そのはじけるような明るい歌声が、歌のメッセージをより印象深く伝えてくれました。
一般的には「東→西→南→北」という順序で展開しそうなところを、この歌では「東→北→南→西」と並べている点に、作詞家・木下龍太郎氏の独自の感性を感じます。子供向けの歌なのですが、当時この歌を聴いて元気づけられた大人も多かったことでしょう。
<しあわせのうた>
作詞:木下龍太郎 作曲:高井達雄 歌:榊原郁恵
1. 東に住む人はしあわせ
生まれたばかりの太陽を 一番先に見つけることが 出来るから
2. 北に住む人はしあわせ
春を迎えるよろこびを 誰より強く感じることが 出来るから
3. 南に住む人はしあわせ
いつでも花の首かざり 愛する人に捧げることが 出来るから
4. 西に住む人はしあわせ
いつも終わりに太陽を 明日の空へ見送ることが 出来るから
5. 生きていることはしあわせ
悲しいときもあるけれど 未来をいつも夢みることが 出来るから
「人の幸せ」ということについては、古今東西、無数と言ってよいほど多くの哲人、宗教家、学者、詩人、芸術家・・・がそれぞれの見解を深く語られていますが、未だに明確な定義はありません。
それは、人それぞれに「幸福の感じ方」が異なるからでしょう。しかし、「物事を良い方向に捉える」「明るい面に目を向ける」という姿勢は、どんな人にも共通する幸福感の土台であることは確かです。この歌の歌詞は、それを端的かつ具体的に表現しています。
また、北に住む人が南に住む人をうらやんだり、西に住む人が東に住む人をうらやんだりといった、他人との比較を一切していません。これも幸福感を高めるには必要なことだと思います。
この歌の主人公(リンク先ジャケットのイラスト絵)は原始時代の家族です。原始時代といえば、現代に比べてはるかに過酷な生活環境であり、猛獣に命を脅かされることもあったでしょう。このような不便で危険な時代でさえ、家族のつながりや自然との共生といった面では、私たちが忘れかけている「本当の幸せ」があったのかもしれません。
■鳩の詩(うた)(NHKみんなのうた)
もう一つ、「NHKみんなのうた」から出た名曲をご紹介します。1985年12月にダ・カーポが制作し歌った『鳩の詩』という曲です。この曲では、折れた翼でなお懸命に飛ぼうとする鳩の姿が描かれます。その健気な姿に心を打たれ、同時に深い勇気をもらえる一曲です。
偶然ですが、この曲を歌っているフォークグループ「ダ・カーポ」メンバーの苗字(本名)は榊原だそうですので、先の「しあわせのうた」の歌手、榊原郁恵さんと同じです。
ちなみに、グループ名のダ・カーポ(Da Capo)は音楽用語で、「曲の最初に戻る」という意味の楽譜の指示記号です。人生の途中でつまずいても、また立ち上がって歩き出す――そんな意味にも繋がっているように感じます。
実はこの曲が生まれる数年前から、ダ・カーポの榊原広子(久保田広子)さんは難病・変形性股関節症を発症していました。長い闘病生活に入りますが、その後、家族でこの試練を乗り越え、闘病記『歩けるって幸せ!』を出版しました。彼女がこの『鳩の詩』に、自らを重ねていたことは想像に難くありません。
どちらの曲にも共通しているのは、「誰かと比べない」「今あることを肯定する」姿勢です。変化の激しい現代にあって、ふと立ち止まり、こうした歌に耳を傾けてみることこそが、実は私たちの「しあわせ」にとって大切なのかもしれません。
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