今回は、昭和から平成にかけて生まれた2つの “知る人ぞ知る名曲”──大塚博堂の『めぐり逢い紡いで』と、レーモンド松屋の『安芸灘の風』──をご紹介します。どちらも全国的にはあまり知られていませんが、聴く人の心に深く残る作品です。
この二人の歌手は、活動期間や活動地域の制約から、広く知られるには至らなかったようです。どちらも素晴らしい歌声の持ち主で、その歌声から醸し出される雰囲気は異彩を放っています。
大塚博堂(おおつかはくどう、本名の読みは“おおつかひろたか”)は、40年以上前に急逝されたシンガーソングライターです。本格的に活動していたのは、1976年~1981年の5年間ほどだったこともあり、全国的に広く知られた歌手ではありませんでした。
一方で、当時彼のステージには、涙を流しながら聴き入る熱狂的な女性ファンも多かったと、伝えられています。聴く者を魅了する、素晴らしい歌声と歌唱力を持ち合わせた歌い手で、37歳の若さで早逝されたのが実に惜しまれます。
表題曲は大塚博堂が作曲し、布施明など他の歌手も歌っていますが、やはり博堂自身の歌声に勝るものは無いと感じます。また、この曲では最後の方に、一瞬ですが “完全な静寂” を挟んでいます。他では見られない独創的な仕掛けのような気がしますが、これも非常に効果的です。
博堂は活躍当時、“愛を唄う吟遊詩人”として全国を巡り、年間100ヶ所以上のステージに立っていたそうです。全国的に知られ始めた矢先の早逝であり、その喪失を惜しむ声は今も少なくありません。
この曲の他にも、『過ぎ去りし想い出は』や『季節の中に埋もれて』などの小ヒット曲がありますが、柔らかくも深みのあるその歌声は、胸の奥深くに染み入るようで、今も静かに人々の心に残り続けています。
この曲は2010年頃、有線放送を中心にかなりヒットした歌だそうですが、私はその当時全く知りませんでした。知ったのはつい最近で、地域の秋祭り芸能祭の「のど自慢」に出演された素人の方が、この曲を歌われたのを聴いて初めて知り、いい歌だな~と深く印象に残りました。
ちなみに、“灘”とは波が荒く航海に困難な海のことですが、表題の安芸灘(あきなだ)は、瀬戸内海西部に位置する海域のことで、芸予諸島以南、周防大島(屋代島)の北側辺りを指します。
その海域の島々を7つの橋で結ぶ「安芸灘諸島」は、みかんやハーブの栽培、最近ではサイクリンクロードで知られています。(*1)
表題曲は、レーモンド松屋というシンガーソングライターが作詞・作曲し、自分で歌われています。この人は四国を拠点に相当古くから音楽活動をされていたようで、この『安芸灘の風』がヒットした時は、59 歳だったということです。
それ以降2012年には、五木ひろしに提供した『夜明けのブルース』で第54回日本レコード大賞「作曲賞」を受賞されていますので、元々相当実力のある音楽家だったのでしょう。この歌は、演歌調でありながらもエレキギターの響きがよく合い、どこか都会的な香りを感じさせる “現代風演歌” とでも言うべきユニークな曲です。
またレーモンド松屋は、ややロック調ながら非常に歌がうまく、当時の有線放送でヒットしたのも頷けます。こうした歌を聴いていると、全国的には知られていなくても、地方に埋もれている良い歌が、未だたくさん有るのではないかという気がしてきます。
ところで、今回ご紹介した二人の歌手やその歌は、今では【“知る人ぞ知る”という存在】かもしれませんが、よく考えてみると、これはこの二人に限らず、ほとんどの人に当てはまりそうです。
ある組織内では知らぬ人のない存在であっても、一歩その外へ出てみると、全く知られていないというのが普通です。その組織が大企業であろうと、地方のちょっとしたサークルであろうと、所属組織のスケールに差があるだけで、その本質は変わりません。
大塚博堂やレーモンド松屋は、華やかな成功を追わず、ただ誠実に自分の歌を紡ぎ続けていただけのような気がします。周りからは、その活動結果が中途半端に終わったように見えたとしても、本人は十分満足していたのではないでしょうか。
華やかに広い世界で活躍する人たちはもちろん素晴らしい存在ですが、それと自分の狭い世界を比較して、情けなく思う必要はないと思います。
世界のことをよく知っていて、「日本に向けて、世界のことを語る人」より、日本のことをよく知っていて、「世界に向けて、日本を語れる人」の方が、よりグローバルだという考え方もあります。
大塚博堂やレーモンド松屋の歌を聴いていると、そんな “自分の場所で輝く生き方” の美しさを感じずにはいられません。
<<参考音源>>「おばちゃんが歌う“安芸灘の風”」
リンク先画面右上(スマホでは下側)の “関連動画” 部分をスクロールしていくと、『おばちゃんが歌う“安芸灘の風”』という動画 が出てきます。この「おばちゃん」は謎の人ですが、さらりとした歌い方で、レーモンド松屋の歌唱とはまた別の味わいがあります。
<<補足説明>>
(*1)「安芸灘の風」の歌詞には、少し分かりにくい言葉がたくさん出てきますので、次のリンク先で補足説明しています。必要に応じてご確認下さい。
「安芸灘の風」の歌詞で使われている言葉についての補足説明(リンク)
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