2026-01-06

【歌なしエッセー】“くずし文字解読ソフト” を使ってみた。

 江戸時代までの古い実用文書の多くは、楷書ではなく、文字を崩して書いた書体、いわゆる「くずし文字」で記されています。手紙や商用文、記録や日記などは、早く書くために漢字や仮名を崩し、さらに文字と文字を続けて書いているため、現代人には日本語であっても内容を理解することが難しくなっています。

 普段の生活で、こうした古文書を読む機会はほとんどありませんが、老舗の看板文字や、旅館の床の間に掛けられた掛け軸などで、「くずし文字」を目にすることはあると思います。

 また、人によっては、自宅や実家の古い蔵の中に眠っている古文書に接する機会があるかもしれません。そうした時、「一体、何が書かれているのだろう」と、その内容を知りたくなるのではないでしょうか。

 

 現在残されている古文書の多くは、学術的には大きな歴史的価値を持たないものかもしれません。ただ、それらを書いた遥か昔の無名の人々が、どのような思いで日々を過ごし、どんな喜怒哀楽を抱えていたのか――残された文字から、その一端でも感じ取ることができればと思うのです。

 全くの素人が古文書を読む場合、まず必要になるのが「くずし字辞書」です。筆の入り方から探す「くずし字解読辞典」や、部首分類で配列された「くずし字用例辞典」などを使い、語や文章を一つひとつ読み解いていくことになります。

 私自身、初心者向けの『古文書解読講座』に何度か参加したことがありますが、わずか数行を解読するだけでも一時間近くかかってしまいました。専門家でない一般人が、古文書をスラスラ読めるようになるのは、決して簡単なことではありません。

 古文書解読という特殊な技能を持つ人は限られており、現在、まともに古文書が読める人は全国で数千人程度とも言われています。
 このままでは、我が国に残された膨大な資料の多くが、読まれないまま埋もれていくことになりかねません。

 しかし近年、スマートフォンのカメラで古文書を撮影し、AI-OCR機能を用いて解読できるアプリが開発され始めています。
 現時点では翻刻精度(*1)は十分とは言えないものの、辞書データベースの充実により、今後の精度向上が期待されています。

 現在、いくつかの「くずし文字解読ソフト」が登場していますが、私は「miwo(みを)」という ”無料のAIくずし字認識アプリ” を試してみました。(下記の添付画像参照)

 miwoは、スマートフォンにインストールし、カメラで古文書を撮影してAIによる解読を指示するだけで、結果をテキストとして出力できます。対象となる文書には、肉眼で文字として認識できる程度の鮮明さが必要ですが、その条件を満たしていれば、1ページあたり数秒で翻刻が行われます。

 翻刻精度はまだ完全ではありませんが、それでも従来の労力を考えれば、驚くべき進歩です。さらに驚いたのは、このmiwoが、タイ出身の女性など主に外国人研究者によって共同開発されたソフトだという点でした。
 日本人でも理解できる人が極めて少ない古文書の翻刻という領域に、海外の研究者が挑戦していることには、驚きと敬意を覚えます。

 miwoは無料アプリですが、国の研究機関であるCODHや、民間企業では、より本格的な崩し字解読ソフトの開発も進められているようです。こうした技術を用いれば、既にかなりの精度での解読が可能になっているのでしょう。

 古文書解読の技術は、これまで長年にわたり、専門家の方々が地道に積み上げてきた知識の集積です。一般的には、AIによる自動解読が進むことで、その専門知識の価値が薄れるように感じられるかもしれません。

 しかし、最終的な解釈や歴史的意味付けには、やはり専門的知見が不可欠です。AIの進歩によって、むしろ専門家の役割は、これまで以上に重要になるとも言えます。

 一方で、全国各地に大量に眠る未翻刻の古文書を誰もが手軽に「読めるもの」へと近づけたという点で、AIによる古文書解読技術は画期的な成果だと感じています。長いあいだ限られた人達だけの世界に属してきた、古文書解読という世界への扉が開かれた。そのこと自体に、大きな意味があるように思えるのです。

 今まで口を閉ざしていた過去の人々、それは場合によってはご先祖の方かもしれませんが、そうした人達が、もう一度こちらを振り返り語りかけてくる。その変化は、小さくとも決定的です。

 何事にも長所と短所はありますが、こうした変化は、AIの進展とともに今後あらゆる分野で起こってくるのでしょう。かつてSF映画で見た未来の光景が、“古文書解読” という分野においても、静かに現実のものとなりつつあることを実感しています。

 

 

<<miwoでの解読サンプル>>
 
■くずし文字で書かれた、基の古文書です 


■miwoのOCR機能で読みった結果が表示されます
        

■miwoのAI機能で翻刻作業後の、テキスト文(横書き)です
       

<補注>

 miwoでの解読は、古文書原文に忠実な翻刻です。原文の文字を現在通用する文字に変換し楷書にするだけで、必要以上の手は加えず原文の形式や体裁を保って解読されます。このため翻刻後のテキスト形式になった文も、現代文になっている訳ではありません。

 

 

<<補足説明>>

(*1)「翻刻」とは 和装本・軸物・古文書など毛筆による崩し字で書かれた原文を楷書体に置き換え読みやすくすることを言います。 これにより誰にでも判読できるようになり、利用者ごとの興味関心、必要性に応じた資料活用が容易になります。

 「翻刻精度(ほんこくせいど)」とは、古文書や古典籍などに残された古い時代の文字(くずし字など)を現代の文字(活字)に置き換えてテキスト化する作業において、原文の文字をどれだけ正確に再現できているかを示す指標です。


<<miwoの紹介サイト>> 

・miwo(みを):AIくずし字認識アプリの紹介サイト(リンク)

・miwo開発者 カラーヌワット・タリンさんの紹介サイト(リンク)

 

 

 

  





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