2026-07-10

【歌なしエッセー】 ”絶対音感“ という不思議な才能について調べてみた。

  どこかで、【絶対音感】という言葉を、一度は耳にしたことがある方は多いのではないでしょうか。


  ”絶対音感の持ち主” といった文脈で使われることが多く、“絶対”という言葉の響きもあって、「絶対的に(他に比べるものがないほど)素晴らしい音楽的才能を持っている人」という意味で、受け取られることが多いようです。
 今回は、この不思議な能力について少し調べてみました。


1.絶対音感とは
 絶対音感の「絶対(absolute)」は,“他の音と比較せずに音の高さを認識できる”という意味で使われており、「優れている」「完璧である」といった価値判断を表す言葉ではありません。

 絶対音感と対比されるのが「相対音感」ですが、こちらは、ある基準となる音との音程の差(距離)を把握する能力です。一方「絶対音感」とは、基準音を必要とせず、一つの音を聴いただけで「これはラ」「これはファ」と瞬時に音名を判別できる能力を指します。 


2.絶対音感を持つ人はどのくらいいるのか
 それでは、日本ではどれくらいの人が絶対音感を持っているのでしょうか。自称での絶対音感の持ち主は多いようですが、実際には非常に少なく珍しい存在です。
 研究によって多少の違いはありますが、総人口の約0.1%~0.5%(およそ200人~1,000人に1人)と言われています。

 学校で例えるなら、クラスに一人といったレベルではなく、学校全体で一人いるかどうかという稀な存在になります。

 また、プロの音楽家だからといって必ず絶対音感を持っているわけではなく、多くの音楽家は相対音感によって演奏しています。
 一方で、幼児期からピアノなどの音楽教育を受けた人では保持率が数%まで高まるという報告もあり、生まれつきの素質だけではなく、幼少期の環境も大きく関係していると考えられています。


3.絶対音感の簡易診断を試してみた
 となると、自分自身が絶対音感を持っているのかどうか、少し気になると思いますが、それを簡単に試せる診断サイトが、Web上に掲載されています。
(注)これは、あくまでも簡易版であり、正式な判定には専門的な検査が必要です。

  【絶対音感のeasy診断サイト(リンク)】

 
 上記サイトでは、10問の音を聴いて音階(ド~シ)を回答するだけで、自分の絶対音感度が分かるという簡易診断ができるようになっています。
 私は100点満点での30点(10問中の3問のみが正解)でした。実際には、ほとんどの音が分からなかったので、正解した3問もまぐれ当たりだった可能性が高いです(笑)。


4.著名人での絶対音感の保持者とエピソード
 一方で音楽家ではない人にも絶対音感があると言われている人はいて、粗品(霜降り明星)、みやぞん(ANZEN漫才)、岡田准一(俳優)、林田理沙(NHKアナウンサー)等が該当します。

 専門の音楽家では、YOSHIKI(X -JAPAN)や松下奈緒、宇多田ヒカル等がいます。こうした人にはエピソードも多いのですが、ここでは二つほどご紹介しておきます。

■みやぞん
 お笑い芸人の “みやぞん” さんは、幼少期に特別な音楽教育を受けておらず、楽譜を読むことが一切できません。しかし、極めて高い絶対音感を生まれつき(あるいは自己流で)持っています。

 テレビ番組の検証で、一度も聴いたことがない複雑なコード進行の曲をその場で一度聴かされただけで、即座にピアノで完璧に再現してみせました。本人いわく、次に弾くべき鍵盤の位置が感覚的に分かり、脳内で「次はここを弾いて」と音がナビゲーションしてくれるような感覚なのだそうです。

■松下奈緒
 音楽大学のピアノ専攻を卒業している俳優・ピアニストの松下奈緒さんは、テレビ番組などで絶対音感保持者ならではの「街中の音」にまつわる苦悩を語っています。

 街中を走る救急車の「ピーポーピーポー」というサイレン音が、頭の中で自動的に「ラ・ファ、ラ・ファ」という音符(ドレミ)に変換されてしまうため、ただの雑音として聞き流すことができません。

 また、お風呂が沸いたときの「お風呂が沸きました」というメロディが流れると、無意識にその音に合わせて綺麗な和音でハモってしまう習性があるそうです。
 絶対音感は便利な能力である一方、日常生活では思わぬ苦労もあるようです。


5.絶対音感を持つ人の脳内活動
 「絶対音感」を大学で学術研究されている方の報告(*1)によると、絶対音感を持つ人が音を聴いたとき、言葉を司る「左半球の聴覚野や言語関連領域」が非常に活発に働いていることが分かってきています。

 一方で、音を聴いたときに右脳(感覚や情緒を司る側)の活動が、相対的に抑えられる傾向も確認されています。
 クラシックを聴くときの脳は、リラックスして音楽に浸るというよりは、「猛烈なスピードで音声をテキスト化し、データ分析を行っている」状態に近くなるそうです。つまり、ドレミなどの音をまるで言語のように処理しているのです。
 
 脳の構造そのものにも明確な違いがあり、絶対音感保持者はそうでない人に比べて、言語の理解や高度な認知に関わる左脳の「側頭平面」という部位が、大きく発達していることが、MRI検査などで確認されています。

 普通に考えると絶対音感を持つ人は、感覚や情緒を司る右脳の方が一般人より発達していそうに思えます。しかし、実際はその逆で、左脳の一部(側頭平面)が大きく発達しているということなので、これは意外でした。

 この辺の話は、以前このブログでご紹介した『昨夜見た夢(“夢”という不思議な現象)』の記事に記した、「サヴァン症候群」の人達の脳活動に似ています。

 しかしサヴァンの人は、右脳の働きが際立ち、左脳による抑制が弱いという傾向があるとされており、ちょうど逆の現象になっています。また対象者数(出現比率)は、「サヴァン症候群」の人は絶対音感保持者に比べても、さらに一段と少ないようです。


6.幼児期の環境が与える影響
 欧米諸国では音大生であっても絶対音感の保持者は1割~2割程度にとどまりますが、日本は世界的に見ても保持者が比較的多い国です。
 その背景には、幼児期から「固定ド唱法」による音楽教育やピアノ教育が広く普及していることが関係していると考えられています。

 このことは、絶対音感に限らず、幼児期の環境がその後の人生に与える影響の大きさを改めて感じさせます。
 教育とは学校だけで行われるものではなく、家庭で交わされる会話や親子の触れ合いも、その大切な一部なのだと思います。

 教育という範疇を超えた話になってしまいますが、次項では、私が最近目にした「少し気になった光景」について触れてみたいと思います。


7.最近、電車内でみかけた光景
 先日、電車内で生後半年ぐらいと思われる赤ちゃんを連れた若い母親と、座席が直ぐ近くになりました。
 その赤ちゃんはベビーカーの中で、しきりに口を「もぐもぐ」動かし、何かを一生懸命伝えようとしているようでした。
 一方、母親の方はスマホ画面を見続けており、赤ちゃんと目を合わせる様子はありませんでした。

 その時だけ、たまたまそうだったのかもしれませんが、こういう光景を見ると、その赤ちゃんが不憫(ふびん)に思え、少し心が痛みます。
 赤ちゃんは、母親(父親も同じです)とフェースtoフェースで目を見合わせたり、言葉の意味は分からなくても、常に話かけたりしてあげることで親の愛情を感じ取ります。

 話してくれている親の表情や声の調子、口の動きから、驚くほど多くのことを吸収していくのだと思います。

 その芽を摘んでしまうのは理不尽に思えてなりません。母親にとってもスマホの利用は当然必要だと思いますが、この時期はもっと優先的に赤ちゃんに接してあげることが出来ないのかと、感じてしまいました。

 もっとも、これは多忙な子育て期を遠く離れた者の身勝手な期待で、またその母親の日常生活の極一場面を垣間見ただけでの、偏向的な見方だったのかもしれません。
 しかし、この光景を見て幼児期の環境が人の成長に与える影響について、改めて考えさせられました。


8.音感と音楽的感性は異なる
 話が少し寄り道をしてしまいましたので、最後に音楽の話へ戻ります。
 音感が優れていれば、楽譜を正確に理解できたり、楽器をスムーズに演奏できる有利さがあるかもしれません。

 ただ、「音感」と「音楽的感性」は似ているようで意味は少し異なります。音楽的感性とは、音楽を聴いて感動したり、情景を思い浮かべたり、自分なりの物語を感じ取ったりする心の働きです。絶対音感がなくても、音楽を深く味わい、人生を豊かにしてくれる感性は十分に育まれます。

 むしろ、際立った音感を持っていないからこそ、音を細かく分析することなく一曲全体の雰囲気を味わう、独自の視点が育つことがあるかもしれません。

 このため私自身は、絶対音感がなくても音楽を心から楽しめることの方が、趣味としては幸せなのではないか、そんな気持ちになりました。

 音楽は、音だけでできているのではなく、その人の人生と結びついて初めて豊かなものになる。今回、「絶対音感」という不思議な能力について調べながら、最後に私が改めて感じたのは、そのことでした。


<<参考情報>>
(*1)絶対音感についての学術研究
 新潟大学脳研究所
「脳は“ドレミ”を言語処理!?-脳波により絶対音感の仕組み解明へ」

 

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